100年使えてエコなハクキンカイロのレビュー 【使い方や暖かくならない時の対処まで】

100年使えてエコなハクキンカイロのレビュー 【使い方や暖かくならない時の対処まで】

なんと今年でちょうど100周年を迎える「ハクキンカイロ」。

人々の体と心を暖めてきたその秘密に迫っていきます!

ハクキンカイロとは?


 

化学が詰まった発熱方法

その物質自体は変化せず、他の物質が変化するのを助ける物質のことを「触媒」と言います。

白金(プラチナ)はベンジンにおける触媒であり、ベンジンが酸化されて二酸化炭素と水に変化するのを補助します。そしてこの時に酸化熱が発生しますが、これを触媒燃焼と言います。ベンジンは非常に高い揮発性・可燃性を有しており、炎による触媒を用いない燃焼では一気に酸化が進行して燃え尽きてしまいますが、触媒を用いることで反応がゆっくり進行し、なおかつベンジン1mlあたり11500calの熱量を発生します。

ハクキンカイロではこの原理を用いています。ガラス繊維と白金黒のようなプラチナ微粒子が織り込まれた火口に、オイルタンク内から気化したベンジンが接触するような構造となっており、ここで白金(プラチナ)が触媒となってベンジンの触媒燃焼が進行します。それによって発生した熱をカイロとして使うという、小さくてシンプルながらも化学の詰まった製品です。

触媒反応の開始を促進するために最初こそライターなどの炎を利用しますが、それ以降は火気を使用しない安全かつエコな製品となっています!

 

ディティール

バーテン風紳士が微笑むレトロなパッケージ箱の中には、ハクキンカイロ本体、フリース袋、注油カップ、説明書が入っています。

 

フタの表面には空気口を兼ねて孔雀のデザインが施されています。創業当時のハクキンカイロとは穴のサイズや位置が異なっており、度重なる研究の結果から、長時間十分な熱量の発熱をするのに最適な空気孔のデザインとなっているそうです。

 

このフタを外すとプラチナ触媒を搭載した火口が現れます。

 

この触媒部分を素手で触ると劣化が早まるようなので、周りの金属部分を持つようにして触媒には直接触らないように要注意!

 

触媒に触れないように注意しながら火口を外すと、中綿の詰まったオイル注油口が出てきます。ここに注油カップを用いてオイルとなる「ベンジン」を流し込んで使います。

 

ちなみに同梱されている注油カップには目盛りが振られており、上の線までベンジンを注ぐと12時間持続、半分の線で6時間持続します!24時間使いたい時にはカップ2杯分のベンジンを注ぎましょう!

 

カイロ本体を収納する袋も付属しています。ネイビーのフリース素材で、老若男女問わず使用できそうなデザイン。

 

使い方

火口を外して中綿を露出したら、タンクの注油口にカップを差し込み、ベンジンをカップに注入していきます。カップには目盛りが振られているので、使用時間に合わせて量を調節します。

 

ベンジンは安価なものも売っていますが、安い物だと持続時間が短くなったりして結局コスパが悪いので、ハクキンカイロ社指定のものを使用しましょう。

指定ベンジンは「エビスベンジン」と「NTベンジン」の2つです。




 

付属している注油カップがシンプルな構造ながら巧くできています。タンクの注油口に挿入するピンク色の濃いパーツが回転するようになっており、90度回転させることで注油穴が開き、オイルが流れ落ちるような仕組みになっています。これにより入れたオイルの量を正確に測ることができます。

 

その後、ハクキンカイロを逆さに持ち、本体を2〜3回押して余分なベンジンを払い出します。

  • ベンジンの入れ過ぎを防ぐためなので忘れずに行いましょう!
  • ベンジンを入れすぎるとプラチナ触媒部にもベンジンが滲み、点火時に火口が燃え上がり危険です。
  • ベンジンはガソリンの一種であり、非常に高い引火性を有してるのでその管理には注意が必要です。

 

そしたら火口を再びセットし、ライターの炎などを火口のプラチナ触媒に軽く3秒程度当てます。これは触媒に着火するためではなく、プラチナとベンジンにおける化学反応の開始を促進するための行為です。

この時に注意点が2つあります。

  • 長時間炎を近づけると火口の劣化につながるので最小限にしましょう。
  • カイロ本体を逆さにして着火するとプラチナ触媒にススが付着して触媒の痛みが早くなってしまいます。

 

触媒反応が開始したかどうか分かりづらいですが、火口の「谷」部分にフタを近づけると、フタの部分が水蒸気で曇ります。これが確認できたらプラチナとベンジンが反応を開始している証拠です。火口は熱くなってくるのでヤケドに注意!

 

これで徐々に温かくなってくるので、フタをしてケースに入れたらあとは温めたいところに使えばOK!

ポケットに入れる以外にも、背中やお腹を温めるために使えるバンドもあるので要チェック!


 

消し方(発熱の止め方)

基本的にはハクキンカイロのオイルタンク内に注入したベンジンが無くなるまで使い切るのが正しい使い方なので、ベンジンを入れる時に使用したい時間を逆算して必要な量だけを入れるようにしましょう!

ですが、ハクキンカイロが温かくなってから不要となり、ベンジンの節約のためにプラチナ触媒反応を停止させたいという場面も出てくるかと思います。そういった場合は、プラチナ触媒のある火口部分を取り外してしまえば触媒反応が起きなくなるので発熱を止めることができます。ただしあくまで応急的な措置であり、取り外す場合は火口が相当熱くなっているのでヤケドには要注意です。

あとは密閉した袋に入れるなどして酸素の供給を絶ってしまえば酸化が起きなくなるので反応が止まります。ただしこの方法を実行すると徐々に不純物が溜まって火口や綿の痛みにつながるそうなので推奨されていません。

また、冷えた場所に置きっぱなしにすることで立ち消えする場合もありますが、この時は次回の使用時にベンジンを入れすぎないように注意する必要があります。

以上からつまりは、ご利用は計画的に、ということです。

 

スペック

  • サイズ:6.8×10.1cm×厚さ1.5cm
  • 持続時間:専用カップ1杯(12.5ml)で10〜12時間、カップ2杯(25ml)で24時間

収納ケースに入れた状態だと、12cm×7.5cmであり、350ml缶をひと回り小さくしたのと同じくらいの平面サイズになります。

 

ミニサイズ・ジャイアントとの比較

今回ご紹介するものを始めハクキンカイロといえば「STANDARD(通常サイズ)」がメインですが、ハクキンカイロには「mini(ミニ)」サイズと「PEACOCK GIANT(特大)」サイズが存在します。

用途や体型などに合わせて選ぶことができるのも良いポイントです。それぞれのサイズなどスペックは以下の表の通りとなっています。

スタンダード ミニ ジャイアント
サイズ 6.8×10.1
×厚さ1.5cm
5.8×8.7
×厚さ1.3cm
7×11
×厚さ2cm
持続時間 最大24時間
(25ml)
最大18時間
(18.75ml )
最大30時間
(50ml)


 

温かくならない時・すぐに冷えてしまう時の対処法

なかなか温かくならなかったり、すぐに冷えてきてしまう場合には以下の原因が考えられます。対処法も併記するのでご確認ください。

原因 対処法
火口が劣化している 火口の交換
ベンジンの不良 指定ベンジン(エビスベンジン・NTベンジン)を使用する
内綿の位置が低い タンクのクチから5〜6mm下の位置に内綿を揃える
内綿の位置が高すぎてプラチナ触媒と接触している タンクのクチから5〜6mm下の位置に内綿を揃える

火口がベンジンで湿っているので温風を当てて乾かす

また、外気温が高い環境で使用した場合、ベンジンの揮発が進行するのでカイロの発熱温度が高くなり、持続時間が短くなります。この場合は収納ケースの上からタオルなどで包み、環境温との差を作ると良いです。

 

100年使えてエコなハクキンカイロのレビュー

グッドポイント

見た目がオシャレ

カイロ本体も収納ケースも、さらに言えばパッケージもシンプルでとてもオシャレです。それでいてどこかレトロな雰囲気も最高。ケースは色がネイビーなので、男女問わず他のアイテムと一緒に持ってもチグハグにならない存在感を放ってくれることでしょう!

 

点火以外で火を使わないので安全

ハクキンカイロの内部で炎が燃焼していると勘違いする方もいますが、このカイロはプラチナの触媒反応による反応熱を利用しているだけなので、物が燃えて炎となり発生する熱とは異なり安全に使用することができます。

ただしオイルである「ベンジン」は非常に揮発性が高く引火しやすい性質を有しています。静電気でも発火してしまうので厳重に火気厳禁の管理が必要です。

 

ゴミが出ない

使い捨てカイロと異なり、ゴミが出ないのでとってもエコです。開発は100年前の製品ですが、近年ブームのSDGsやESG的な観点からも優秀な、時代に沿った逸品であると言えます。

 

マイナスポイント

湯たんぽには劣る

カイロとしてだけではなく、寝袋に入れて湯たんぽとして使おうと考えている方もいるかもしれません。

私も試したことがありますが、結論から言うと完全には湯たんぽの代わりにはならないです。

私の場合は湯たんぽは主に足先が冷えるのを防ぐために使いますが、ハクキンカイロだと単純にサイズが小さいため足部全体を温めることができませんでした。ただし温かさに関しては十分すぎるくらい温かいので、冬以外の季節で寝る時にちょっとした暖かさが欲しい場合には有用かもしれません。

また寝ていると湯たんぽの中は体温などで徐々に温度が高くなっていきますが、ハクキンカイロはカイロ本体の周囲温度が高い状態で使用するとベンジンの揮発が加速し、保温の持続時間が短くなってしまいます。そのため入れたベンジンの量が少ないと朝には冷えてしまうことがあります。12時間持続するからと安心してカップ1杯だけベンジンを入れて湯たんぽ代わりに寝たことがありましたが、朝には冷えていました。もしも使用する場合にはカップ2杯分を入れた方が良いでしょう。

 

背中に貼れない

使い捨てカイロの一種である「貼るカイロ」のように、血流の多いとされる肩甲骨の間や鼠径部などに貼って使うことができません。もしもポケットに入れる以外の方法で使いたい場合には、他社からもハクキンカイロを体に巻き付けて使うための「専用バンド」が売っているので、そちらを使用すると良いでしょう。

 

意外と経済的ではない?

ハクキンカイロにかかる費用を計算してみます。公式サイトの値段を参考にすると必要物品の価格は以下の通りです。

  • ハクキンカイロスタンダード本体:4378円(税込)
  • 指定エビスベンジン(500ml):1341円(税込)
  • 交換用火口(1〜2シーズン毎に交換が推奨):990円(税込)
  • 取り替え綿(3〜10シーズン毎に交換が推奨):780円(税込)

ベンジンは25mlで24時間使用できるので(外気温など環境によって変動はしますが)、1時間あたり約1ml消費します。値段としては1341÷500で1mlあたり2.68≒2.7円かかります。よって1時間あたり2.7円の計算となります。

一方で、使い捨てカイロは、カンガルーのアイコンで有名なアイリスオーヤマのカイロが30枚入りで621円(セール後税込)となっています。621÷30で1枚あたり20.7円です。このカイロは持続時間(40℃以上を保持し続けられる時間)が12時間なので、20.7÷12で1時間あたり1.7円となります。

単純に計算しても、使い捨てカイロの方が経済的であることが分かります。もう一つの指定ベンジンである「NTベンジン」は500mlで1060円とエビスベンジンよりも安価ですが、そちらを使用した場合でも1時間あたり2.1円となります。

ハクキンカイロ 使い捨てカイロ
1時間あたり 2.7円(2.1円) 1.7円

ここに本体代金とシーズンごとのパーツ(火口・綿)交換の費用がかかるため余計に割高となってしまいます。

単純に「1日12時間使用(使い捨てカイロと条件を合わせるため)」し、「11月〜3月までの年150日」を使用すると考えた場合、本体の代金を含めたハクキンカイロの総費用は以下の表の通りになります。

期間 ベンジン代 総費用 1日あたり
1日(12時間) 32.4円 4410.4円 4410.4円
1ヶ月(30日) 972円 5350円 178円
1年(150日) 4860円 9238円 61.6円
2年 9720円 14098円 46.9円
3年 14580円 18958円 42.1円
4年 19440円 23818円 39.7円
5年 24300円 28678円 38.2円
10年 48600円 52978円 35.3円

使い捨てカイロの場合は、1日1枚とすると1日あたり20.7円なので、圧倒的に使い捨てカイロの方が安価です。

ただし、ハクキンカイロの方は割引のタイミングで購入したり、AmazonなどのECサイトを利用すればもっと安く使えるかもしれませんし、これ自体が雑貨好きの心をくすぐるというか、所有欲みたいなものを満たしてくれるのでそういった意味では価格以上の価値はあると思います。

また、熱量を考慮した時には、一概にハクキンカイロの方が使い捨てカイロよりもお金がかかる!とも言えません。

というのも、ハクキンカイロは使い捨てカイロの13倍の発熱量を有していることに加え、触媒反応による発熱であることから外気温の影響を受けずに最初から最後まで一定の温かさを発揮します。使い捨てカイロではパワー不足ですぐに冷えてしまうような環境であったり、使い捨てカイロを2個使いするような場面だったりではハクキンカイロの方がコスパが良くなるでしょう!

あとは補足ですが、ゴミも出ないので地球規模で見た場合にもハクキンカイロの方が経済的だと思われます!

 

注油カップをいちいち使うのが面倒

注油カップを別途で持ち運ぶ必要があり、荷物が増えて面倒です。ベンジンをあらかじめ目盛り付きで容量が分かるミニ容器に入れて携帯すれば良いかもしれませんが、その場合ベンジンに対応した容器を使用しましょう。


 

ハクキンカイロ株式会社とは?

はじまりはロンドン。

1900年代初頭、海外では当時、プラチナ触媒を利用したいわゆる「白金ライター」が流行っており、創業者の的場仁市氏がロンドン街中でこれを発見します。不思議に思い手で持っていると、その手が温かくなってくることに着目。カイロになるんでは?と閃いた的場氏はこれを日本に持ち帰り開発に没頭したそうです。

3年後、プロトタイプが出来上がると1923年4月10日に特許を出願して「矢幡登商会」として創業するに至ります。つまり今からちょうど100年前に現在の「ハクキンカイロ」が始まりました。

オリンピックの聖火輸送にハクキンカイロが使用されていた、というのをご存知でしょうか?アテネから空路で聖火を運ぶ際、「火」ではなく「熱」として聖火を継承できる存在としてハクキンカイロが活躍したそうです。1964年の東京オリンピックではトーチのスペアとして、1989年の長野オリンピックではメインの輸送手段として、聖火を日本へ届けました。

この会社、言い方は悪いですが「ハクキンカイロ」だけの一発屋という悪いイメージがあるかもしれません。ですがハクキンカイロ株式会社は「触媒技術」の会社でもあります。ブランドスローガンである「心身の健康への奉仕」「環境に調和した製品とサービスを提供」に基づき、今後の事業展開として水素エネルギー分野での活躍を目指しているようで、環境負荷の少ない「水素製造触媒」の開発が直近の研究目標だとか。

ハクキンカイロをポケットに入れると私たちは温かさを感じることができますが、それの延長線上では、地球温暖化とは全く別の意味で、この「ハクキンカイロ」が地球を豊かな自然環境に囲まれた温かみのある星へと歩ませてくれるのかもしれません。


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